「MHD発電」って何?(真剣に知りたい人向け)



「MHD発電」って何? ちょっと知りたい  もっと知りたい  真剣に知りたい  高性能化に向けて



化石燃料などの限られたエネルギー資源を有効に利用するためには,効率の高いエネルギー変換システムの構築が必要不可欠である。火力発電のように熱エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムにおいては,熱力学第二法則に従い,熱をより高温で利用することが要求される。化石燃料を空気中で燃焼させると,2000℃程度の高温ガスが得られるが,現在のところこの温度領域の熱を効率よく電気エネルギーに変換する技術は成熟しておらず,発電には利用されていない。現在最も広く用いられている蒸気タービンでは,550℃程度の熱が利用され熱効率は40%程度であるが,それより高温の熱を利用するガスタービン発電(1100℃程度)を用い,蒸気タービンとの複合発電システムとすることで総合で43%程度の熱効率を実現している。またさらに高温化を進め1300℃級の複合発電システムでは総合熱効率が48%程度となる。図1に各発電方式の利用可能な作動温度を示す。ガスタービン・蒸気タービン複合発電が1300℃程度以下の温度領域で発電するのに対し,MHD発電ではさらに高い温度領域の熱を利用する。このように温度領域に応じた適当な発電方式を選んで発電し,広い温度領域において熱エネルギーを有効に利用することを「熱のカスケード利用」と呼んでいる。高効率発電システムを構築する上で熱のカスケード利用は必須であり,MHD発電をガス・蒸気タービン発電と複合することで50〜60%の高い総合熱効率が期待されている。


発電プラントの使用最高温度と効率

MHD発電では,高温の熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。そこでは火力発電等の従来の発電方式よりも高いエネルギー変換効率(熱効率)が実現でき,さらに大気環境への影響も軽減できることが期待されている。MHD発電では,化石燃料や水素だけでなく原子核エネルギーなど幅広い熱源が利用可能で,従来の蒸気タービンやガスタービンに続く次期大容量新発電方式の1つとして考えられている。MHD発電では,図2に示すように,電気伝導性を有する流体(作動流体)を外部から磁界が印加された発電機流路内に流し,流体の持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。すなわち作動流体の流れ方向と印加磁界にそれぞれ垂直方向に生じる起電力を利用し,負荷を接続することで電気出力を取り出す。そこでは作動流体が誘起されるローレンツ力に対抗して仕事することでエネルギー変換を行う。MHD発電で用いられる作動流体は電気伝導性をもつ気体と液体金属とに大別され,それぞれプラズマMHD発電(単にMHD発電と呼ばれることが多い),液体金属MHD発電という。プラズマMHD発電では,燃焼ガスを用いるものと希ガス(アルゴン,ヘリウム)を用いるものがあり,それぞれ発電システムの構成から開放型(オープンサイクル)MHD発電と密閉型(クローズドサイクル)MHD発電と呼ばれる。液体金属MHD発電はシステム形態上後者に属する。

 気体(プラズマ)を作動流体とする場合,液体金属に比べて電気伝導度が低いことから,微量のアルカリ金属(カリウムまたはセシウム)もしくはそれらの化合物(シード物質という)を作動流体に混入する。カリウム,セシウムの電離ポテンシャルは低いことから比較的容易に電離し,プラズマ状態とすることで高い電気伝導度を得る。一般に,オープンサイクルMHD発電ではアルカリ金属化合物がシード物質として用いられ,高温気体中で解離させアルカリ金属原子とし,熱電離プラズマ(熱平衡プラズマ)状態とする。一方,クローズドサイクルMHD発電では,シード物質としてアルカリ金属が用いられ,誘導起電力によるジュール加熱より電気伝導度の高い非平衡電離プラズマ状態とする。
 従来の蒸気タービンやガスタービンでは,作動流体が回転するタービン翼を通って膨張しエネルギー変換を行う。作動流体の温度は,タービン翼の熱機械的強度から蒸気タービンでは600〜650℃,またガスタービンでは1300〜1500℃に制限される。プラズマMHD発電機では作動流体が発電機ダクト内を通過するだけで可動部分がないことから,作動流体の温度を,オープンサイクルMHD発電の場合2500〜2700℃,クローズドサイクルMHD発電の場合1700〜2000℃の高温にすることができる。もちろん発電流路壁を水冷する必要はあるが,発電機が大型になるほど発電流路体積に対して流路壁面積が小さくなるので,熱損失は相対的に低く抑えられる。

オープンサイクルMHD発電

オープンサイクルMHD発電システムの典型例を図4に示す。1500℃程度の予熱空気もしくは酸素富加空気で化石燃料を燃焼させ,2500〜2700℃の燃焼ガスを生成する。その燃焼ガスに数%程度のシード物質(K2CO3など)を添加し,5〜10S/m の電気伝導度を持つ熱電離プラズマとすることで発電を行う。発電機を出た作動流体は熱回収ならびにシード回収システムに導かれ,そこで回収した熱を空気予熱や蒸気タービンの熱源として利用する。発電出力はMHD発電機および蒸気タービン発電機から得られるが,MHD発電機は直流発電機であるので,インバータを介して交流電力に変換される。

 このオープンサイクルMHD発電システムはいくつかの重要な利点を持つ。MHD発電機は石炭スラグが存在しても機能することから石炭を直接燃焼したものを作動流体とすることができる。しかも石炭に含まれる硫黄分は,発電機下流の熱交換器内でシード物質K2CO3と反応してK2SO4となることから脱硫装置は不要である。また様々な質の石炭が利用でき,電極表面に形成されるスラグ層により水冷電極表面が保護されると同時に発電流路壁での熱損失が低減され得る。これまでの研究で,金属電極の寿命は適当な運転状況下で4〜8000時間を越えると推定されている。

 1500℃程度の予熱空気を得るための高温加熱器(高温空気予熱器)として,既存技術では隔壁型熱交換器は困難であり,セラミック製のペブル床もしくはコアドブリック床蓄熱型熱交換器が考えられている。しかし,オープンサイクルMHD発電においては,蓄熱床における石炭スラグやシード化合物の蓄積,ならびにそれらのセラミックスへの悪影響が考えられ,やはり技術的に克服すべき点も多い。従って,現時点では2700℃程度の燃焼ガスを得るために酸素富加空気を用いているが,この熱交換器が技術的に確立していないだけに多くの熱エネルギーが発電機下流のボイラに送られ,蒸気タービン発電出力の割合が増加し,結果として熱効率は45〜50%(高位発熱量基準)程度に抑えられる。しかしながら石炭燃焼MHD発電は,今日考えられている石炭エネルギー有効利用技術の中で最も高い効率を持ち得るので将来技術として非常に重要で,石炭スラグやシード化合物の存在下で動作する高温熱交換器が開発できれば,改良型オープンサイクルMHD発電システムとして55〜60%の効率が期待できる。さらに最近では,CO2回収型高効率石炭燃焼MHD発電プラントも提案されており,環境保全に適応した発電システムとなり得ることが示されている。

 オープンサイクルMHD発電の研究は,1950年代末期から米国で行われ,そこでは短時間ながら大出力を目指す実験と,比較的小出力ながら長時間運転を目指す実験が行われた。オープンサイクルMHD発電の発電実験の主な結果を図5に示す。大出力を目指す実験は,1959年,米国AVCO社 Mark I 装置を用いて10秒間11kWの発電出力が得られたことを機に米国,ロシア,日本で相次いで実験が行われた。

  • AVCO Mark II 装置 (米国, 1961年) -- 1.5MWe (5分間)
  • LORHO 装置 (米国, 1966年)-- 15MWe (1分間)
  • ETL Mark II 装置 (日本, 1971年) -- 1.2MWe (数分間)
  • U-25 装置 (ロシア, 1970年) -- 20.1MWe (数時間)
  • HPDE 装置 (米国, 1980年) -- 35.5MWe (10秒間)

  •  U-25 および HPDE 装置におけるエンタルピー抽出率(発電機への熱入力に対する発電出力の割合)の最大値は,実験機ながらもそれぞれ7%,12%に達し,これらの値は商用大規模オープンサイクルMHD発電機で要求されるエンタルピー抽出率20%に対して非常に明るい見通しを与えるものであった。

    また1975年,日本の電子技術総合研究所 Mark V 装置では,初めて超電導磁石を用いた(〜4.2T), 0.5MWe, 3時間の長時間実験が行われた。これを機に,米国,ロシア,日本において相次いで長時間運転を目指した実験が行われた。 

  • AVCO Mark VI 装置 (米国, 1976年) -- 100 時間
  • U-25 装置 (ロシア, 1977年) -- 200 時間
  • AVCO Mark VII 装置 (米国, 1978年) -- 500 時間
  • ETL Mark VII 装置 (日本, 1981年) -- 227 時間
  • AVCO Mark VII 装置 (米国, 1981年) -- 1300 時間
  • U-02 装置 (ロシア, 1983年) -- 800 時間

  •  AVCO社 Mark VII および U-02 装置では,石炭スラグを伴うMHD発電流路の耐久試験が行われ,前者の実験では PtやSUSで覆った陽極,W-Cu 陰極を用いることにより8000時間(約11ヶ月)にわたる連続運転の可能性が示された。

     MHD発電機に関する研究開発と平行して,オープンサイクルMHD発電における主要な構成要素機器についても開発が行われた。超電導電磁石に関しては,まずはじめに磁束密度4T,蓄積エネルギー4MJの超電導コイルが米国AVCO社で1966年に製作され,また先に述べたように,1975年日本の電子技術総合研究所で超電導磁石を用いた初めての発電実験が行われた。1977年には,U-25装置(ロシア)発電実験用5Tの超電導磁石が米国で製作され,また米国アルゴンヌ国立研究所には6Tの超電導磁石が設置された。商用大規模オープンサイクルMHD発電機には,7T,5GJ程度の超電導磁石が必要とされるが,既存技術の延長上にあるものと考えられる。またオープンサイクルMHD発電においては石炭燃焼器の開発が重要であることから,これまで,米国,ロシア,日本,ポーランド,中国など多くの機関で燃焼器に関する研究がなされてきた。米国TRW社は1975年に10MWtの燃焼器を,また1984年には50MWtの燃焼器を製作している。

     米国におけるMHD研究は,1975年以降,米国エネルギー省の支援のもとで石炭燃焼MHD発電に重点が置かれ,1976年から80年にかけて2つの大型装置 CDIF(Component Deveplment and Integral Facility)とCFFF(Coal Fired Flow Facility) が建設された。CDIF装置では,主にトッピング部分を担当し,50MWtの石炭燃焼器を運転し,西部炭(モンタナローズバット)を用いて1.7MWeの発電出力を得るとともに,出力制御回路,酸化鉄添加のスラグ分極への影響,石炭燃焼器の2段目酸素吹き込み,インバータ電力変換など一連の試験を行った。一方,CFFF 装置では,主にボトミング部分ならびにシード再生に関する試験が行われた。これらのMHD研究計画は,1987年から(1993年まで)POC(Proof-of-Concept)計画として正式にスタートした。CDIF装置では,1992年に1000時間にわたる長時間運転を達成し,商用規模発電機の寿命や発電システムの信頼性などを検討した。CFFF装置では,硫黄分を多く含む(3.3%)東部炭(イリノイ#6)を用いた2000時間の試験を,また西部炭を用いた800時間の試験を行い,MHD発電機下流機器の開発を行うとともに,NOx低減技術に関する見通しを得ている。このPOC計画は多くの成果とともに終了し,石炭燃焼MHD発電の可能性を確実なものにした。

     ロシアにおけるMHD発電研究開発は,1960年代に始まり,天然ガス燃焼MHD発電装置U-25を建設し,20.1MWeの発電出力を得,200時間にわたる連続運転を実証した。一方で1974年からは石炭燃焼MHD発電装置U-02を用い,ジルコニア電極,マグネシア絶縁壁を用いて800時間にわたる試験を行った。U-25装置の実績をもとに1975年にMHD発電出力270MWe,蒸気タービン発電出力312MWeの天然ガス燃焼MHD発電-汽力パイロットプラントU-500の建設が計画され,その建設は1982年にスタートしたが,国内情勢とも関連して,その建設は蒸気プラントだけに止まり,MHD発電部は建設されないまま1989年以降延期されている。最近ロシア科学アカデミー高温研究所(IVTAN)のMHD理論研究グループから,発電性能を大幅に向上させる目的で「Current-clots(非一様流MHD発電) 方式」が提案され,オランダ,イタリアとの共同研究が進められている。

     中国では,1962年以降北京電工研究所を中心としてMHD研究開発が進められ,1966年には上海発電プラント装置研究所,1969年には南京の南東大学でも実験が始まった。それぞれの研究機関で,灯油燃焼オープンサイクルMHD発電装置(熱入力4-6MWt)が建設され,1980年代初期までに32kWeの電気出力,200時間の連続運転を実証した。また電工研究所では,1986年に純酸素灯油燃焼の短時間試験で60MWt熱入力に対し2.04MWeの発電出力を得た。中国においては石炭が主なエネルギー資源であることから80年代以降,それぞれの装置を石炭燃焼用に変更した。発電実験と平行して,鞍形超電導電磁石(4T)が電工研究所で製作され,ロシアで試験を行った。このような実績をふまえ,電工研究所では,高効率低公害の石炭火力発電を目指して,国家プロジェクトとして2000年までの計画で25MW熱入力の石炭燃焼MHD発電実験装置が稼働しており,設計発電出力163kWeに対し約120kWeの出力を達成している。 

     またインドでも研究開発が進められ,イタリアでは石炭燃焼MHD発電用超電導電磁石(5T,62.5MJ)が製作されている。

     我が国における研究開発は,1961年頃から国立研究所,大学および民間企業等で始められた。オープンサイクルMHD発電の研究が本格化したのは,1966年度に通産省の大型工業技術研究開発制度のテーマに取り上げられてからである。以後1975年までの第1期,それ以降の第2期において研究開発が行われ,1988年に目標を達成して本計画は終了した(前述)。この間,大学でも特徴的な基礎研究が行われ,現在も継続されている。北海道大学のエネルギー先端工学研究センターでは,電磁流体現象と磁界配位の最適化による発電機の高性能化を目指して,熱入力5MWtの灯油燃焼MHD発電実験装置HUM-5が調整を終え発電実験を実施できる段階にある。豊橋技術科学大学では,微粉炭の燃焼機構と石炭燃焼器の研究,ならびにスラグ,ノンスラグ雰囲気での電極アーク現象の詳細な理論と実験研究が進められている。京都大学では,CO2回収型高効率発電プラントの提案,出力制御(電力系統との相互作用),アーク現象解析など数値シミュレーションによる研究を精力的に進めている。また九州大学でも発電機内流れの実験的研究やレーザを用いたMHD発電プラズマの診断を行っている。

     以上述べたように,オープンサイクルMHD発電に関する研究は,各国の研究機関で行われ多くの成果が蓄積されている。今後克服すべき技術開発課題も少なくないが,石炭エネルギーを有効に利用し,しかも環境保全に資する有望な技術として位置づけされている。

    クローズドサイクルMHD発電

    ローズドサイクルMHD発電(図6)では,作動流体に0.1〜0.01%程度のアルカリ金属(カリウムやセシウム)をシードした希ガス(アルゴンやヘリウム)を用いる。誘導起電力に起因するジュール加熱によりプラズマは電子温度が作動流体温度よりも高い非平衡電離状態となり比較的低い作動気体温度(1700〜2000℃)においても高効率発電が可能である。電子温度が5000K程度になるような運転条件ではシード物質はほぼ完全に電離し,そのときの電気伝導度は,オープンサイクルMHD発電における燃焼ガスプラズマの場合よりも1桁以上高い50〜200S/mに達する。このことに関連して出力密度(単位体積あたりの発電出力)が高く発電機の小型化が可能で,超電導磁石も小型になる。燃焼ガスプラズマの場合よりもホール係数が高いのでホール型MHD発電機が適用可能で,実験では50-150MW/m3程度の出力密度,15-35%程度のエンタルピー抽出率をすでに実証している(後述)。クローズドサイクルMHD発電においては,MHD-蒸気タービン,MHD-ガスタービン,MHD-ガスタービン-蒸気タービンの複合システムが提案されており,MHD-ガスタービン-蒸気タービン複合システムでは,55%を越える熱効率(高位発熱量基準)が期待されている。

     クローズドサイクルMHD発電はさらに以下のような利点を持つ。システムの最高温度は2000℃程度でオープンサイクルMHD発電に比べて700℃程度低くく作動気体は希ガスで不活性であること,さらに混入するシード物質の量が少ないことから,電極や絶縁壁あるいは断熱材などのシステム構成材料に対する熱機械的・化学的制約は緩和され,低ガス温度・高出力密度であることから発電流路壁での熱損失の割合は小さく抑えられる。またホール係数の高い非平衡プラズマを利用するので,超電導電磁石やインバータの構成がより容易なホール型ディスク形状発電機(後述)が利用できる。この形状の発電機では,アークが発生しても,それが電極上のある位置にとどまることなく,ローレンツ力によって方位角方向に回転するので,電極の損傷が極端に少なく長寿命が期待できる。またクローズドサイクルMHD発電は,化石燃料,原子力高温ガス冷却炉,核融合炉など多様な熱源に適用できる利点を持つ。現在の実験研究開発では熱源として天然ガスが用いられている。石炭に関しては,高温熱交換器に入る前段階での石炭燃焼ガスからスラグの除去に関する基礎研究が必要で,また原子核エネルギーに関しては,1500℃以上の高温ガスが供給できるようになれば有力な熱源となり得る。

     クローズドサイクルMHD発電に関しては,まずMHD発電で用いられる非平衡プラズマそのものや発電特性に関する理論的・実験的基礎研究が,1960年代に,MIT(米国),マックスプランク研究所(ドイツ),クルチャトフ研究所(ロシア)をはじめとする多くの研究機関で始まった。最初のブローダウン(吹き流し)方式の実験(クローズドサイクルMHD発電の基礎実験用で,作動気体の経路が閉じていない)はイタリアで行われ,電気ヒータで加熱されたヘリウム(シード物質:セシウム)を作動気体とし,予備的に電離させることにより非平衡プラズマを生成した。しかしながら多くの研究機関で電離不安定性に起因したプラズマの非一様構造が確認され,発電に必要な高い電気伝導度が得られないことが示唆された。また当時有力な熱源として考えられていた高温ガス冷却炉において1700℃程度のヘリウムを得ることが困難であるとされ,クローズドサイクルMHD発電に関する研究は1970年代に多くの研究機関で中止された。

     一方で,GE社(米国),アイントホーヘン工科大学(オランダ),東京工業大学(日本)は,化石燃料を熱源とするクローズドサイクルMHD発電の実験研究を行った。GE社では,石炭直接燃焼による熱交換器に関する一連の試験を行い,作動気体(アルゴン)中に含まれる分子性不純物が100ppm程度に抑えられること確認した(分子性不純物は非平衡プラズマの生成・維持の妨げとなる)。しかし同時にスラグ付着によるアルミナコアドブリック床内でのガス流れの鈍化やコアドブリック床への悪影響が示唆された。アイントホーヘン工科大学では,天然ガスを熱源とする熱交換器を備えたブローダウン実験装置を用いて初めて本格的な発電実験が行われた。ファラデー型直線形状発電機(後述)を用い,14%程度のエンタルピー抽出率を実証するとともに,発電機内のプラズマ状態に関する詳細な検討を行った。

    東京工業大学では,1970年代にホール型ディスク形状発電機を用いて,低シード率(0.01%程度)ながらそのシード物質を完全に電離させることで,プラズマの一様化を図り高い電気伝導度を得ることを目指した実験を行った。80年代初期には,衝撃波管実験装置(発電時間:数ミリ秒程度)を用いて,100〜200S/mの電気伝導度を,また6を越えるホールパラメータを実現した。この経緯をふまえ,80年代中頃,図7に示すような,蓄熱型熱交換器,超電導電磁石(4.7T),ディスク形発電機を備えた2-5MWt熱入力のブローダウンMHD発電実験装置 "FUJI-1"が建設された(発電時間:1分程度)。天然ガスを熱源とする高温熱交換器で1700〜1800℃程度に加熱されたアルゴンにセシウムをシードした作動流体を用い,これまで18%のエンタルピー抽出率(発電機への熱入力に対する発電出力の割合)を実証した。図8にFUJI-1装置で得られたエンタルピー抽出率を,オープンサイクルMHD発電実験およびアイントホーヘン工科大学でのクローズドサイクルMHD発電実験の結果とあわせて示す。この図からわかるように,オープンサイクルMHD発電では,高いエンタルピー抽出率を実現するために大型の(熱入力の大きい)装置が必要であるのに対し,クローズドサイクルMHD発電では小型の(熱入力の小さい)装置においても高いエンタルピー抽出率が得られている。これは主に非平衡プラズマを用いることで高い電気伝導度が得られることによる。なお,FUJI-1装置は衝撃波管装置によるミリ秒程度の実験を除くと世界最高の性能を達成している。一方,衝撃波管実験装置では,ヘリウムを作動気体として38%,アルゴンを作動気体として30%程度のエンタルピー抽出率が得られている。これらの高エンタルピー抽出率は,均一で電気伝導度の高いシード完全電離プラズマが,発電機内の流体諸量が強いMHD相互作用に起因して変化するにも関わらず実現できることによる。

    クローズドサイクルMHD発電は,これら30年間にわたる研究経緯をふまえ,50-100MWt熱入力のクローズドループ性能試験,ならびに100時間を超える材料およびシステムの耐久試験が行われるべき時期に来ている。

    液体金属MHD発電

     作動流体に液体金属を用いるもので,電離気体(プラズマ)を用いるものに比べ導電率は10万倍程度高いことから流速が小さくても発電が可能である。また使用温度が1200℃程度以下であることから,2000℃程度またはそれ以上の温度を必要とする気体のMHD発電に比べると温度そのものに対する技術的問題は少なく,太陽熱の利用も可能である。液体金属の加速は気体に比べて容易ではないが,液体金属とその蒸気の混合状態(二相流)を用い,熱サイクルとしてランキンサイクルを構成することが可能で,宇宙空間や特殊環境下での利用に関心が持たれている。

    放電・プラズマを利用するものではないので,代表的な関連参考資料を列挙するのみにとどめる。

    1. Edited by H.Branover, P.S.Lykoudis, and A.Yakhot : "Liquid-Metal Flow and Magnetohydrodynamics", American Institute of Aeronautics and Astronautics, Inc. (1983)
    2. Edited by H.Branover, P.S.Lykoudis, and M.Mond : "Single- and Multi- Phase Flows in an Electromagnetic Field", American Institute of Aeronautics and Astronautics, Inc. (1985)
    3. Edited by J.Lielpeteris and R.Moreau : "Liquid Metal Magnetohydrodynamics", Kluwer Academic Publishers (1989)  など

    パルスMHD発電

     上記3種類の発電方式はいずれも定常連続運転用に研究開発が進められているが,ごく短時間(10秒程度)ながら大電力を発生することを目的としたものがパルスMHD発電である。原理はガスを用いるMHD発電方式と同じであるが,固体ロケット燃料や水素・酸素燃焼による3000〜4000℃程度の高温作動流体を短時間だけ発電機内に流し大出力を得ると同時に必要な磁束密度を自励で発生させる。このパルスMHD発電方式は,可搬大電力発生装置としての特徴を生かし,地下資源探査,地震予知等への応用が期待されている。

     パルスMHD発電の研究は,1970年代にクルチャトフ研究所(ロシア)で始められ,近年ではロシアアカデミー高温研究所とTDS社(米国)の共同でパルスMHD発電実験装置PAMIR-3Uを用いた実験が行われている。この装置は,3つの発電機を持つ磁界自己励起型装置で,固体燃料を用いて高温で高圧(46気圧程度)の作動流体を得,10秒程度ながら設計値通りの15MWeの電気出力(30kA,500V)を発生している。パルスMHD発電機内でのMHD相互作用は極めて強く,境界層剥離や衝撃波-境界層相互作用などの物理現象が実験的に研究されている。上述の通り,パルスMHD発電は地下資源探査用大電力パルス電源としての応用が考えられているが,「パルス」と言うもの発電時間は10秒程度あるので,将来の商用規模MHD発電機の研究にも役立つものと考えられ,ロシアでは国際協力に基づく研究プロジェクトが計画されている。

    参考資料

    1. MHD発電およびプラズマに関する代表的な著書

  • G.W.Sutton and A.Sherman : "Engineering Magnetohydrodynamics", McGraw-Hill (1965)
  • S.T.Angrist : "Direct Energy Conversion", Allyn and Bacon,Inc., Chap.3 (1965)
  • R.J. Rosa : "Magnetohydrodynamic Energy Conversion", McGraw-Hill (1968),もしくはその改訂版 Hemisphere Publishing Corporation (1987)
  • M.Mitchner and C.H.Kruger : "Partially Ionized Gases", John Wiley & Sons (1973)
  • H.K. Messerle : "Megnetohydrodynamic Electrical Poewr Generation", John Wiley & Sons (1995)  など
  • 2. MHD発電に関する国際会議,シンポジウム,研究会資料

  • Proc. of International Conference on MHD Electrical Power Generation (数年に一度開催され,これまで12回行われている)
  • Proc. of Symposium on Engineering Aspect of MHD (毎年米国開催され,これまで33回行われている)
  • 電気学会,新・省エネルギー研究会資料(毎年開催)
  • エネルギー先端工学シンポジウム(旧:エネルギーの有効利用と直接発電シンポジウム) (毎年北海道大学で開催されている)  など
  • 3. MHD発電に関する研究論文掲載雑誌

  • 電気学会,論文誌B(電力・エネルギー部門誌)
  • IEEE Transactions of Plasma Science
  • Energy Conversion and management
  • AIAA, Journal of Propulsion and Power
  • AIP, Physics of Fluids  など



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