1 はじめに
これまで東京工業大学ではクローズドサイクルディスク形MHD発電機による高エンタルピー抽出を実証するために,1分程度の発電時間を有するブローダウン実験装置Fuji-1(1)ならびに数ミリ秒程度の発電時間を有する衝撃波管実験装置(2),(3)を用いて発電実験を行ってきた。一方で,実験結果を説明すべく,また将来の方向性を示すべく1次元,2次元そして最近では3次元の電磁流体数値シミュレーションを行っている(4)。さらにいくつかの基礎研究も並行して行い,また計画されている。これらすべては発電機の高性能化を目指した研究であるが,ここでは,東京工業大学において,最近どこまで成果が得られているのかをまず示すとともに,結果から示唆される今後の課題を明確にし,それらに対してどのようにアプローチしようとしているのかについて述べる。
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2 最近の実験成果
Fuji-1実験装置では,ペブル床蓄熱型熱交換器で2000K程度に加熱されたアルゴンにシード物質としてセシウムを数100ppm添加したものを作動気体とし,超電導磁石により磁界が印加されたディスク形発電機に作動気体を流すことで電気出力を得る。発電機を出た作動気体は真空タンクへ排出される。図1にFuji-1実験で近年用いてきたディスク形発電機Disk-F3a,Disk-F3r,Disk-F4の断面図を,また表1にそれぞれの発電機において最高のエンタルピー抽出率が得られたRunの作動条件と結果を示す。1989年Disk-F3a発電機を用いて15.7%のエンタルピー抽出率を,さらに1992年にはDisk-F3r発電機を用いて18.0%のエンタルピー抽出率を達成している。1994年に,IVTAN(ロシア)製のピストン駆動方式のシード注入装置が導入され,また同年Disk-F3a,Disk-F3r発電機で得られた知見をもとにDisk-F4発電機が製作された。Disk-F4発電機は,図1に示したように,これまで用いられてきたDisk-F3a, Disk-F3r発電機と同様スワールベーンなし radial flow 発電機であり,Disk-F3a発電機に比べて発電機入口・出口断面積比が大きく,またDisk-F3r発電機に比べて発電機入口マッハ数が高く,発電出力の向上とその確実性を追求した発電機となっている。このDisk-F4発電機を用いた実験では,16.7%のエンタルピー抽出率が得られ,500kWを越える発電出力が得られた。これらの値は,Disk-F3r発電機での最大エンタルピー抽出率18.0%に,またDisk-F3a発電機での最大出力517kW(エンタルピー抽出率15.2%)にわずかに及ばないものの,高いエンタルピー抽出率と高い発電出力を同時に満足するものとして特筆すべき結果となっている。また,同発電機では15〜16%のエンタルピー抽出率が多くのRunで実証され,再現性ある結果が得られているだけでなく,最大出力を与える最適シード率では,シード完全電離プラズマが支配的であり,電子温度,発電出力ともに変動が小さくなる傾向にあることなどが確認されている。
Generator channel | Disk-F3a | Disk-F3r | Disk-F4 |
---|---|---|---|
Run number | 6208 | A8108 | A4105 |
Working gas | Ar + Cs | Ar + Cs | Ar + Cs |
Stag. pressure (MPa) | 0.46 | 0.42 | 0.42 |
Stag. temperature (K) | 1850 | 1930 | 1950 |
Thermal input (MW) | 2.57<3.07> | 1.65<1.95> | 3.01<3.56> |
Seed fraction | 2.0×10-4 | 3.0×10-4 | 2.0×10-4 |
Load resistance (Ω) | 0.62 | 0.51 | 0.25 |
Output power (kW) | 404 | 297 | 502 |
Enthalpy extraction(%) | 15.7<13.2> | 18.0<15.2> | 16.7<14.1> |
一方,衝撃波管実験装置では,He/Csを作動気体とし入口スワールベーンを備えたISTEC-1発電機,ならびにAr/Csを作動気体としたradial flow型のRLN発電機を用いて,更なる高エンタルピー抽出率・高断熱効率の実証を目的とした研究が進められている。図2に衝撃波管実験装置で用いているISTEC-1発電機,RLN発電機の断面図を,また表2にそれぞれの発電機を用いて得られた代表的な実験結果を示す。得られた最大エンタルピー抽出率は,ISTEC-1発電機で31.6%,RLN1発電機で26.5%と高く,いずれの発電機においても商用規模発電機で想定される値(〜30%)にほぼ達しているといえる。しかしながら高効率発電システムを構築する上で重要な指標である断熱効率はそれぞれ46%,37.4%と商用機で要求される値(75%以上)に比べてかなり低い。そこで,エンタルピー抽出率に対する断熱効率の割合を増加させることを意図し,発電機出口/スロート断面積比の小さな形状を持つ発電機(負荷結線をA-C2間からA-C1間に変更することで断面積比を小さくたISTEC-1発電機,およびRLN2発電機)で実験が行われた。図3に得られたエンタルピー抽出率と断熱効率の関係を示すように,いずれの発電機においても,断面積比を小さくすることでエンタルピー抽出率に対する断熱効率の割合が増加することが確認できる。これは,断面積比の異なる発電機おいて同じエンタルピー抽出率が得られたとき,結果として断面積比の小さな発電機ほど気体の膨張が少なくてすんだということによるもので,エンタルピー抽出率と断熱効率の関係は,いくつかの仮定の下で,断面積比の関数として与えられている(5)。いずれの発電機においても,断面積比の小さい発電機の方が達成断熱効率は高く,ISTEC-1発電機では55%,RLN発電機では40.5%という特筆すべき値が得られている。注意すべき点は,自明なことではあるが,断面積比の小さな発電機はエンタルピー抽出率に対する断熱効率の割合を増加させるだけで,エンタルピー抽出率そのものを増加させるものではないことである。事実,得られた結果からもわかるように,そのときのエンタルピー抽出率は,それぞれ27.7%,16.8%と断面積比が大きい場合に比べて低い。このような結果は予想できたこととはいえ,実験的に確認したことの意義は大きい。すなわち,あるエンタルピー抽出率と断熱効率を設定すると,必要とされる発電機の発電機出口/スロート断面積比が大凡決定され,そのときエンタルピー抽出率を増加させることと断熱効率を増加させることは完全ではないが同等の意味合いをもつことになる。その目標値に近づける努力は,結局発電機内でいかに高い電気変換効率を実現するかということに帰着する。
Generator channel | ISTEC-1 | ISTEC-1 | RLN1 | RLN2 |
---|---|---|---|---|
Working gas | He + Cs | He + Cs | Ar + Cs | Ar + Cs |
Aexit/Athroat | 24.4 | 10.1 | 14.4 | 4.25 |
Magnetic flux density(T) | 2.55 | 2.55 | 2.7 | 2.7 |
Stag. pressure (MPa) | 0.23 | 0.19 | 0.24 | 0.21 |
Stag. temperature (K) | 2190 | 2000 | 2500 | 2500 |
Thermal input (MW)* | 1.26 | 1.15 | 1.57 | 2.50 |
Seed fraction | 5.6×10-4 | 3.5×10-4 | 9.0×10-4 | 5.4×10-4 |
Load resistance (Ω) | 5.0 | 2.0 | 0.22 | 0.11 |
Output power (kW) | 461 | 319 | 408 | 418 |
Enthalpy extraction(%) | 31.6 | 27.7 | 26.5 | 16.8 |
Adiabatic efficiency(%) | 46 | 55 | 37.4 | 40.5 |
本節の最後に,Fuji-1実験と衝撃波管実験に関する議論を加えておく。Fuji-1装置では,超電導磁石を使用することによって衝撃波管装置よりも高い磁束密度を有しているものの,得られているエンタルピー抽出率は低い。その主な理由としては,衝撃波管装置では発電することに対して理想的な条件が与えられるのに対し,Fuji-1装置では装置固有の課題として,
1) 発電機出口での比較的高い圧力(背圧)に見合う発電
機・ディフューザの設計がなされていないこと
2) 不純物(水分・ダスト)が作動気体に混入すること
3) 不確かであるが,シード物質の壁面付着の恐れがあること
などがまず考えられる。いずれも高効率長時間連続運転を実現する際重要な検討課題である。
3 検討課題とアプローチ
3.1 高い電気変換効率の実現に向けて
高い電気変換効率を得るためには,発電機内の均一な非平衡プラズマの実現と同時に低損失流れの実現が必要である。図4は高い電気変換効率を実現するために必要と考えられ,東京工業大学で現在研究の対象としているもしくは研究を予定している事柄をまとめたものである。MHD発電機内ではプラズマと流体が強く相互作用しているので両者を別々に議論することは不可能であるが,ここではプラズマおよび流体に要求される事柄に対してどのような検討課題が存在し,またそれらに対してどのようにアプローチしようとしているのかを具体的に述べる。
ホール効果を利用するディスク形発電機では,電気変換効率を向上させるために,本質的に高い実効ホール係数を必要とする。そのためには,超電導磁石による高い磁束密度を利用してホール係数そのものを増加させることと同時に均一安定なプラズマを実現することで実効的なホール係数を高く維持する必要がある。前者は,考え方として安易なものともいえるが,その効果は実験・シミュレーション結果を待つまでもなく確実なもので,商用機で要求される高性能発電機は高磁束密度を用いてのみ実現可能となる。東京工業大学現有設備から考えれば,Fuji-1装置の超電導磁石と衝撃波管装置を組み合わせた発電実験は,高性能実証実験として非常に意義深いものとなり得る。
一方で,与えられた磁束密度の下ではいかに均一で安定な非平衡プラズマを実現するかが重要となる。過去30年にも及ぶ研究の中心はこのテーマに関連したものであり,今後も引き続き研究が精力的に行われるものと考えられる。高エンタルピー抽出率が実証されている現在では,流体諸量が流れとともに大きく変化するような強いMHD相互作用下でいかに均一安定なシード完全電離プラズマを実現するかが重要となる。発電機内での均一安定なプラズマの実現の困難さは,それが発電機形状,あるいは負荷抵抗といった発電機そのものに関連した運転パラメータだけで決まるものではなく,発電機入口でのプラズマ・流体諸量の状態に大きく依存することである。前者に関していえば,最終的には発電機形状の最適化(後述)が必要となるが,まずはFuji-1装置,衝撃波管装置ともに発電機内のプラズマ形態の明確化(流体諸量との関連性を含む)が必要である
発電機内プラズマには,上で述べたように均一安定で実効ホール係数が高いことが要求されるが,電気変換効率を向上させるためには,そのようなプラズマを低い負荷率,すなわちより少ないジュール加熱量で生成することが必要である。言い換えれば,非平衡プラズマにおいて電子のエネルギー損失を低く抑える必要がある。作動気体中に混入する不純物,特に水分の問題は,クローズドサイクルMHD発電の開発当初から指摘され,Eindhoven大学におけるBlow-down装置(8),そして現在のFuji-1装置においても発電性能を劣化させる主な原因の1つとして考えられている。この問題は化石燃料を熱源とした蓄熱型熱交換器を用いることに起因するものであるが,今後の大きな課題の1つとして今なお残っている。Fuji-1装置では,現在混入する水分濃度を150ppm程度にまで低減できているが,それでもシード率(〜200ppm)と同じオーダーである。電子の水分子との非弾性衝突を考慮した数値シミュレーション(9)の結果が予想する水分濃度の許容範囲(50ppm以下)から判断すると更なる低減が必要とされる。一方で,水分子を含む非平衡シードプラズマのモデリングも十分とは言い難く,水分子とセシウム原子・イオンとの化学反応等を考慮したモデリングが必要である。また,モデリングが確立され,予め混入する水分濃度がわかっている場合は,それに見合う発電機の設計または運転条件の最適化も可能と考えられるが,その場合本質的により高い負荷率が要求され,多かれ少なかれ断熱効率の低下は免れないものとなる。将来水分混入によるある程度の性能劣化を許容せざるを得ないことになったとしても,現時点では水分混入量の低減と性能を予測できるほどのモデリングの確立に関する努力が必要である。
作動気体中には水分だけでなく,Fuji-1装置で観測されているように,蓄熱型熱交換器の構成材料であるセラミックスの破片がダストとして混入する。ダスト表面での荷電粒子の再結合に起因する損失を考慮したモデルによれば,あるダスト量を境に急激に発電性能が劣化することが示唆されている(10)。ダストの量や大きさの分布に関する計測例がないので,数値計算との比較は不可能であるが,ダスト表面に形成されるシースの厚さと同等もしくはそれ以下となる数ミクロンからサブミクロンのダストが多く含まれる場合,ダストの質量流量の割にはその影響は大きくなる。またシード物質の蒸発が不十分でミスト状態のまま発電機に導かれた場合,そのミストはダストとして振る舞い,電子を供給するはずのシードが逆に電子の吸収体となる恐れがある。まずは,混入しているダストの量や大きさ分布等の定量的な把握が必要である。
ディスク形MHD発電機では,その構成要素としての電極間絶縁壁の占める割合が大きい。絶縁壁には耐熱性・耐絶縁性といった過酷な条件が要求されるが,プラズマ生成・維持の立場から考えると,MHD発電プラズマが衝突が支配的なプラズマといえども,ダストの場合と同様に壁面での荷電粒子の再結合に起因する損失が生じる(11)。この影響は発電流路高さが小さい(熱入力が小さい)場合顕著となり,損失を補うために過度のジュール加熱を必要とする。電子とシードイオンの壁に向かう両極性拡散は荷電粒子の損失だけでなく,シード物質の壁面への輸送をもたらし,シード物質の壁面付着を助長する恐れがある。実際には,プラズマは流体とともに乱流状態にあるので,そのモデリングを含めた現象の予測は非常に困難であると考えられるが,近年r-z2次元あるいは3次元数値シミュレーションにおいて壁面近傍でのホール電流の逆流現象が明らかにされてきている(12)
高い電気変換効率を実現するために発電機内の流体に要求されることは,いうまでもなく低損失流れを実現することである。発電機内の流れはローレンツ力を介して変化するが,発電機の形状を決めると,プラズマと異なって流体そのものを外部から制御することは難しく,また流れがノズル,発電機,ディフューザからなる発電流路全体の形状から決定されるところに難しさが存在する。
発電機上流に設けられる超音速ノズルでは,全圧の低下を極力抑えた上で所定のマッハ数まで流体を加速することが要求される。一方で,先に述べたように,発電性能を低下させないためにノズル出口(発電機入口)において比較的高い電気伝導度をもつプラズマを生成しておく必要がある。ノズル内の負荷率やノズル出口近傍のマッハ数を高く設定するとプラズマ生成は容易となるが,全圧の低下を招いたり発電機側から要求されるマッハ数との整合がとれなくなる恐れがある。ノズル内でのプラズマ生成過程(不純物を含む場合はその影響も考慮して)の把握とモデリングを確立した上でのノズルの設計が必要である。先に述べたように,発電機入口での予備電離を想定すると,ノズルでの流体加速とプラズマ生成という2つの機能は分離でき,ノズルでは単純に低損失加速の実現を追求し(加工性のよい金属壁で構成するなど),プラズマ生成は外部から制御することが可能となる。
超音速ノズルに関連して,ISTEC-1発電機では,発電機入口にスワールベーンを設け旋回流を導入することで高発電出力を実証している。旋回流の有用性は古くから指摘されているが,MIT衝撃波管装置ではベーン先端から発生するWakeによってプラズマが不均一となることが観測されている(13)。ISTEC-1発電機では観測していないので不明ではあるが,設置されているベーンはMITのものと同形なので,同様なWakeが発生している恐れがある。最近の数値計算からこのWakeによる全圧損失は大きいことが示唆されており,スワールベーン形状の最適化に関して検討の余地が残されている
発電機内の流れは,上で述べた発電機上流の超音速ノズル,下流のディフューザでの状態や負荷抵抗・シード率などの運転条件などによって,むしろ受動的に決定される。設計上の課題は後で述べるとして,まずは発電機内流体諸量の十分な把握が必要である
また,発電機内で生じる境界層現象の明確化が必要である。現在のところ発電機内流速の高さ方向分布等は実験的には明らかになっていないが,これまでのr-z2次元,また3次元計算(いずれもBaldwin-Lomaxモデルを採用)から,速度分布の形ははローレンツ力によって変化することが示されており,結果としてホール電流分布(その逆流現象も含めて)に大きな影響を与えることが指摘されている(12)。このことは発電機設計に度々利用される準1次元計算では,完全に考慮できないでの細心の注意が必要である。数値計算上の問題は,そのモデルにもあるが,基本的には境界層が発電流路全体の流れの中で決定される現象でありながら,それを詳細に把握するためには非常に多くの計算点を必要とすることである。現在,MHD境界層だけに的を絞った数値シミュレーション(k-εモデルを採用)も並行して行っているが,主流との整合性の問題から従来のr-z2次元コードと組み合わせた計算が将来必要となる。
また最近の数値解析において,非平衡MHD発電機内では,乱流流体中のMHD相互作用に起因して付加的な粘性が生じることが示唆されている(16)。この解析は1次元モデルによるものであるが,乱流は本来3次元構造をもつので,多次元解析への展開が期待される。
3.2 高効率発電機の設計に向けて
上記のような高効率発電の実証や様々なモデリングの確立は,将来の高効率発電機を設計する上で非常に重要である。これまで,定常準1次元モデルを用いて,プラズマが安定になるような束縛条件,あるいは局所電気変換効率が最大となるような束縛条件の下で発電機形状を決定する試みがなされてきた(17),(18)。この解析では,問題が順問題となるので取り扱いが容易な上,大凡の発電機の形状や性能が評価でき,現在でもその有用性は大きい。しかし一方で,1次元モデルであるが故に,実験結果との不一致や多次元解析結果とのずれがあることも事実である。最近の2次元,3次元シミュレーションにおいて比較的実験結果と一致する結果が得られていることを考えれば,言うまでもなく発電機設計を多次元で行うことが望ましい。しかしながら,その場合取り扱いは逆問題となるので,現在のコンピュータの能力では不可能に近い(19)。
ここでは,具体的な例として,Fuji-1装置における発電機設計を想定し,そこに存在する発電流路設計の難しさ,すなわち検討すべき課題を考える(テクニカルな問題は除く)。大ざっぱに考えれば,発電性能は「発電機入口でのプラズマ状態と出口での流体条件」に大きく左右される。発電機入口おけるプラズマ状態の重要性は先に述べた通りであるが,プラズマ生成過程自体がそれほど明確になっていない上,Fuji-1装置ではさらに水分やダストといった等の不純物を含む系を考えなければならないので現象は一層複雑なものとなる。すなわち,入口条件の不明確さが設計を困難としている1つの要因となっている。一方,Fuji-1装置では真空タンクへの吹き流し方式をとっているので,発電機下流域の流体条件,特に圧力は,流量の積分量に対応して変化し,比較的明確な量として(発電時間後半で0.02〜0.03MPa)与えられている。背圧の影響は以前からその重要性が指摘されていたが,先に述べたように,最近になってようやく背圧を考慮した電磁流体シミュレーションが可能となってきたのが実状である。現在,ディフューザ形状が発電性能に与える影響を数値計算により調べているが,それを踏まえた上で,また実験を通して,今後MHD発電用ディスク形ディフューザの形状の最適化に関する検討が進められるべきである。
重要なことは,前節で示しように,発電流路を構成する超音速ノズル,発電機,ディフューザは一体ものとして統一的にその形状を検討すべき点にある。現在すでに発電機内の3次元電磁流体シミュレーションが可能となっているので,プラズマ生成過程のモデリングが可能となれば,もしくは予備電離技術が確立すれば,近い将来,ノズルやディフューザを含めた形状でのかなり精度の高い性能予測が可能となる。ここまでくれば,あとは与えられた条件の下で,最適形状・最適条件を探す問題に帰着する。現在は,その準備が整いつつある状況であると考えている。
4 まとめにかえて
本論文では,東京工業大学におけるクローズドサイクルMHD発電に関する最近の研究成果を述べるとともに,発電機の高性能化に必要な現時点での検討課題を列挙し,そのような課題に対してどのようにアプローチしようとしているのかを可能な限り述べることを試みた。発電機の性能そのものに着目したので,様々なコンポーネントを含む発電システムとしての検討を割愛した。
述べてきたように,発電機の高性能化には今後検討すべき課題が少なくないが,それぞれが学術的にまた工学的に極めてchallengingなテーマであることが再認識される。
文 献
(1) Y.Okuno, et al. : "Closed Cycle MHD Power Generation Experiments with FUJI-1 Blow-down Facility", Proc. of 12th Int. Conf. on Magnetohydrodynamic Electrical Power Generation, 1, pp.155-164 (1996-10)
(2) H.Yamasaki, et al.: "Achievement of Highest Adiabatic Efficiency in Disk CCMHD Generator with Ar/Cs", Proc. of Symp. on Eng. Aspect of Magnetohydrodynamics, pp.5.2.1-5.2.6 (1997-6)
(3) H.Nakamura, et al.: "Isentropic Efficiency of Shock-tube Driven Disk MHD Generator", Proc. of Symp. on Eng. Aspect of Magnetohydrodynamics, pp.5.3.1-5.3.10 (1997-6)
(4) S.Kabashima, et al. : "Recent Progress in Closed Cycle Nonequilibrium MHD Power Generation", Proc. of 12th Int. Conf. On Magnetohydrodynamic Electrical Power Generation, 1, pp.1-15 (1996-10)
(5) 辻 潔:「アルゴン-セシウム非平衡プラズマを用いたディスク型MHD発電機の特性に関する研究」東京工業大学学位論文(1995)
(6) 村上貴裕,他:「空間的なシード不均一下での非平衡ディスク形MHD発電機内プラズマの挙動」電学論B,117, pp.665-670 (平9-5)
(7) 田家鉄也,他:「非平衡ディスク形MHD発電機における高周波予備電離の可能性」電学論B,116, pp.712-717(平8- 6)
(8) W.J.M.Balemans and L.H.Th.Rietjens : "High Enthalpy Extraction Experiments with the Eindhoven Blow-down Facility", Proc. of 9th Int. Conf. on Magnetohydrodynamic Electrical Power Generation, 2, pp.330-340 (1986-10)
(9) 佐々木要,他:「ディスク形CCMHD発電機における水分混入時の放電構造と発電性能」電学論B,117, pp.246-251(平9-2)
(10) 佐々木要,他:「ディスク形CCMHD発電機に及ぼす混在ダスト粒子の影響に関する数値解析」電学論B,117, pp.743-748 (平9-5)
(11) 奥野喜裕:「非平衡MHD発電プラズマの壁面損失」 電学論B,115, pp.1381-1386 (平7-11)
(12) T.Suekane, et al. : "The effects of Boundary Layer Phenomena on the Performance of Disk CCMHD Generator", IEEE Trans. on Plasma Science, 23, pp.97-102 (1995-2)
(13) W.J.Loubsky, et al.: "Detailed Studies in a Disk Generator with Inlet Swirl Driven by Argon", Proc. of Symp. on Eng. Aspect of Magnetohydrodynamics, pp.Y4.1-Y4.5 (1976)
(14) 関孝和,他:「強いMHD相互作用下ので放射状超音速流れの計測」電学資,SEC-952, pp.11-20 (平7-9)
(15) T.Suekane, et al. : "Numerical Simulation on MHD Flow in Disk Closed Cycle MHD Generator", AIAA Paper, AIAA-97-2396 (1997-6)
(16) O.N.Safronova, et al. : "Effect of Gasdynamic Fluctuations on the Performance of a Non-equilibrium MHD-generator", T. IEE Japan, 117, pp.216-223 (1997-2)
(17) Y.Okuno, et al. : "Comparative Studies of the Performance of Closed Cycle MHD Generators Using Argon, Helium and an Argon-helium Mixture", Energy Convers. Mgmt. , 25, pp.345-353 (1985-7)
(18) Y.Inui, et al. : "New Conceptual Design Method of Non-equilibrium Disk MHD Generator", Energy Convers. Mgmt. 36, 109 (1995)
(19) 末包哲也:「遺伝的アルゴリズムを用いた順問題アプローチによるMHD発電機設計」電学論B,116, pp.867-872(平8-7)